武徳会に表敬訪問。これがスペイン流のトレーニングだ
08年、11月11日、東京・練馬区大泉の国際玄制流空手道連盟武徳会大泉道場に、第18回世界大会-65キロ級チャンピオンのセサル・カスターニョ・フェルナンデスと第17回大会-70キロ級3位のオスカー・バスケス・マーチンの両選手と、スペインナショナルチームのリーノ・ゴメス・フェイト・コーチ、及びスペイン玄制流の木幡宏通師範が訪れた。
木幡師範は25歳の時にスペインに渡り、以来、30数年にわたって玄制流の空手の普及活動に務めており、 今回、来日したオスカーとセサルは孫弟子に当たる。
今回、世界大会が日本で開催されるにあたり、武徳会を表敬訪問したいという思いと、せっかくだからスペイン流のトレーニングを披露してもらおうという武徳会側の意向が一致し、急きょ、スペイン流トレーニングセミナーとなった。
練習時間の最初30分を生徒たちと基本練習に汗を流したスペインチーム。その後、リーノコーチの元、スペイン式の練習をみんなで行うことになるのだが、いきなり見たこともない練習が始まり、全員、あっけに取られた。
日本の練習体系にはない、スペイン流トレーニングを紹介しよう。
解説は当日参加していた武徳会杉田道場の杉田隆二先生だ!
25歳の時にスペインへ渡ったという木幡宏通師範(左)と、スペインナショナルチームのリーノ・ゴメスコーチ(右)。
武徳会の生徒たちとともに整列するオスカー(左)とセサルの両選手。正座がちょっとぎこちない?
ステップ1 左右に動きを身に付ける練習
彼らが真っ先に始めたのは、3人一組になり、真ん中の人を中心に、ステップを踏みながら対角線上の相手と同じ動きをする練習だ。相手が右に動けばこちらは左に動く。真ん中を中心に対角線上になるように移動するだけだ。当然、前後の動きではなく、左右の動きになる。
残念ながら私は相手の動きに合わせるだけというこのような練習をしたことがない。
これは身体の使い方がどうのというのではなく、日本の選手に一番欠けている練習方法ではないだろうか。真ん中に立っている人間に対して、対角線上の位置に動く練習は、ヨーロッパの選手と対戦するには一番大切なことであると感じた。
相手の動きに付いていけなければ勝負にならない。
二人の身体能力を考えれば当然かもしれないが、フットワークの軽快さには驚かされた。二人は私の言う中丹田が発達しているようである。特に、左右の動きには有利なモノがあるようだ。
おそらく日本人同士でこの練習をしたら、相当慣れるまで真ん中に立っている人間との距離が詰まってしまい、二人のような動きにはならないような気がする。下丹田が発達している狭い土地に住んでいる農耕民族である日本人は、前後の動きには強いが左右の動きに弱いものがあると感じる。
真ん中の人間を中心に、相手の対角線上に動く
3人一組となり、真ん中の人間を中心軸に、左右の二人がステップを踏みながら必ず相手と対角線上になるように動く。まずAが動き、Bがそれに合わせるようにし、次にAとBを入れ替えて行う。相手の動きに素早く反応できるようにするためのトレーニングである。
ステップ2 番号に併せて突き蹴りを出す練習
次に彼らは、一人が号令をかけ、その番号によって技を出す練習を始めた。例えば「1」なら刻み突き(前拳突き)、「2」なら逆突き、「3」なら前蹴り、「4」なら回し蹴りというふうに。単発だけでなく、次第に「1、3」、「2、4、1」などと複合的にしていく。
これに似た練習は今でも行われるが、言われた数字に合わせて突き蹴りを出すというのはやった記憶がない。
この練習方法も、数字で行うなら数字と出す技を統一すれば、どの会派、どの団体でも集まって練習する時に有効ではないだろうか?
逆突きは、ほとんどのヨーロッパ選手と同様に、前手の方から入り、上から突き降ろすように身体を捻ってい突いているようだ。またスイッチ飛びしながら出しているようでもある。
遠い間合から一気に入る、とにかく二人の身体のバネには驚きだった。
ヨーロッパ選手は完全な半身で構えるケースが多いのに、二人は完全な半身にはなっていなかった。前手の突きも出せるし、特にマーチンの後ろ足の中丹田から始まっているような蹴りは、すごいモノがある。この練習に慣れているからであろうが、二人の反応の速さには驚きだった。
号令の数字に合わせて技を繰り出す
3人一組となり、一人が号令をかける係となる。しかし「1」なら刻み突き、「2」なら逆突き、「3」なら前蹴り「4」なら回し蹴りと番号と出す技を決めておき、号令をかける人間は「1」「2」などの単発だけでなく「1、2」、「2、3」など複数を組み合わせる。
ステップ3 相手の動きに合わせる練習+番号に合わせて突き蹴りを出す練習
3番目に彼らがしたことは、ステップ1とステップ2を組み合わせた練習。すなわち3人一組になり、対角線上になるようにステップを踏みながら真ん中の人が号令をかけ、その番号に当てはまる技を互いに繰り出すというものだ。
動きながらも自分で決めた技を出す練習はしたことがあるが、このような練習はしたことがない。慣れもあるだろうが、多くの日本人が行う場合は、遠い間合から入った時、身体を投げ出すように入るので、号令の間隔をもう少し開けないとやりづらいと感じた。
これもまた二人の反応の速さ、スピードには驚嘆した。特に元の位置に戻る速さはすごい。
練習次第で、ある程度の身体能力があれば、できるだろうが、下丹田をぶつけるように入る人が多い日本人には、あのスピードで戻るのは大変であろうと思われる。
真ん中の人間を中心軸に相手と同じ技を出す+号令に合わせて技を出す
ステップ1とステップ2の複合トレーニング。真ん中に人間を置き、AとBが対照的に立つ。真ん中の人間を中心軸に相手と対角線上になるように動き、真ん中の人間が号令を発し、それに合わせて技を繰り出す。
ステップ4 相手の手足に触れて、その反応で攻撃、または技を返す練習
最後に彼らが見せたのは、互いに向かい合い、一方が相手の身体のどこかに(手であれ足であれ)触れたら、反対に技を繰り出すという練習だ。
私もこのような練習もしているが、最後に見せてくれた下段後ろ回しの足払いまではやったことがない。
相手の触る場所を技と見立てて、どのように触ってきたらこの技を出すなど、もっと考えたらバリエーションも増えるだろう。またそれに対しての返し技も増えてくると思う。この練習はその人の構え方、得意技によって反応する技が変わってもいいような気がする。返し技も同様である。
相手に触れられた瞬間、技を出す
互いに向かい合い、一方が相手の身体に触れるのを合図に技を繰り出す。次の段階は出して来た技をさばいたりカウンターを取ったりして、反撃をする。スペインチームが見せた最も日本人と違う返し技は、相手の裏回しのカウンターを取りながら下段後ろ回し足払い(写真下)であろう。
日本人とスペイン人の違い
スペインの選手たちは移動基本の時、脚ではなく足の蹴りで移動していた。下肢の力も非常に強いのであろう。
前足は、動き始めに開いていた。膝の曲がる角度は分からないが、その方が彼らにとっては骨盤がスムーズに動くのであろうと想像する。
その場で突く時も肩甲骨も動いているのであろうが、それより下半身がほとんど動いていないのに、肩あたりの横の回転が日本人と明らかに違い、大きく動いている。
このあたりが日本人選手との大きな違いであろう。
国際玄制流空手道連盟武徳会大泉道場のみなさん。
−JKFan2009年2月号 特集記事より転載−