徹底した合理主義
国際玄制流空手道連盟武徳会の特徴を一言で表せば、「徹底した合理主義」からなる技術体系であろう。 常に実戦を想定し、実戦で戦えるように稽古する。我々が取材で訪れた東京都本部道場では、土佐邦彦会長自らが張りのある声で子供たちを指導していた。 「すぐに受けろ!そんなにゆっくり動いたら受けられんぞ!」子供ひとりひとりを呼んで手取り足取り熱心に型を指導する姿は、まさしく現代を生きる武人そのものである。 その愛情のこもった厳しい指導により、道場は心地よい緊張感に包まれていた。
熱心に指導をする全国大会でおなじみの土佐樹誉彦指導員(総本部)
練習始めの基本稽古では、始めの頃は特に他道場との差は感じられず、 立ち方、突きや蹴りも通常通りに行われていた。 しかし、徐々に玄制流の特徴である旋・運・変・捻・転の原理に基づく動きになってくる。
因みに、旋・運・変・捻・転とは、
- 旋
- 体軸の縦方向の施回運動
- 運
- 前後上下への昇降運動
- 変
- 前後左右へ自ら倒れる運動
- 捻
- その場における体の捻転による手技・肘技の使い方
- 転
- 体の前転・後転・横転により相手の予測外に変化した状態での技法
である。
既存の稽古と比べると、突き蹴りの時の旋回や捻転は体育としての効果も絶大なものがあり、 バランス感覚や基礎体力を効果的に養うことができるのではないかと思う。
あくまでも現実での戦いを想定
さて、武徳会では古武道も稽古体系に組み込まれている。過去にも独特の技術体系が注目され、 マスメディアに度々取り上げられているが、こと古武道に関しては過去にあまり見たことがない。 しかし、この古武道も沖縄から伝承されたものをそのまま指導しているのではなく、独自の発想で改良が加えられているのだ。
ではなぜ古武道を学ばなければいけないのか?それは、現実の戦いでは物を持って戦った方が優位であるからに他ならない。 まして相手が刃物を持っていたら、身近なものを取って戦う方が現実的である。
土佐会長は、「最近の若い人たちは、試合と実戦を混同している」と言う。 試合はあくまでもルールがあり1対1で行うもの。対して実戦では事前の申し合わせもなければ複数を相手にすることもある。
祝嶺正献氏が確立し、土佐氏に受け継がれた空手道は、あくまでも実戦を想定し相手の意表をついて勝つことを追求しているといって良い。 ゆえに徒手空拳だけにこだわらず、古武道も同時に指導することは、会派の理念を考えれば至極当然の成り行きでもある。 余談ではあるが、土佐会長の自宅を訪問し話を伺った時に、街中で刃物を持った相手と戦わなければならなくなった時には、 薄めの週刊誌を丸めても武器になると話していた。週刊誌でも傘でも、身近にあるものは何でも武器として利用する。 この戦いに関しての徹底した合理主義が、競技空手の分野でも如何なく発揮され、過去から現在に至るまで数々の個性的な名選手を輩出し続けている。
土佐邦彦氏が玄制流空手道創始者の祝嶺正献氏から習ったことは、常に戦える状態で生活をすることであった。 「祝嶺先生はいつでも闘えるように酒は殺して飲めと教えられたが、そういう酒は美味しくないですよ」と懐かしそうに話す。
誤解を招かない為に付け加えておくが、土佐氏は何でもかんでも戦えば良いと言っているわけではない。 戦いを挑まれても、逃げられるうちはできるだけ逃げ、それでも戦わなければいけない場合には、全力で戦えと言うことを説いている。
- 玄制流の鍛錬型
- 内範置《ナイファンチ》、王冠《ワンカン》、祝嶺《シュクミネ》の抜塞《バッサイ》、 祝嶺《シュクミネ》の抜塞(小)《バッサイ(ショウ)》 、三才《サンサイ》、鷺牌《ローハイ》、 公相君(大)《コウショウクン(ダイ)》、公相君(小)《コウショウクン(ショウ)》 、城間《グスクマ》のチントウ
武徳会古武道の特徴
武徳会で指導している古武道は、祝嶺正献氏から伝えられたものではない。 実戦での武器の必要性を感じ、一九五五年当時親交のあった琉球古武道の研究者として著名な剛柔流荒川武仙氏に祝嶺正献氏の許可を得て師事、 そこに土佐氏独自の考えを取り入れて現在の体系を作り上げたものだ。
武徳会で指導されている古武道は、沖縄から伝わってきたそれとは少しばかり趣が違っている。 現代社会の生活のサイクルでは、空手と一緒に古武道の全過程を習うことは困難である。 であれば、習うのは必要最低限のものに止め、動きもできるだけ単純化して覚えやすく体系化しようとの発想で作られたのが、武徳会の古武道なのだ。
また、土佐氏自身の自衛隊時代の経験を踏まえ、銃剣術を参考にしているのが大きな特徴だ。 これらの経緯から、武徳会で指導しているのは、棒とヌンチャクが主たるもので、特に棒においては、右手の甲を下、左手の甲を上にして持ち、
- 原則として振る場合を除いては持ち替えない。
- 受けた時に蹴りを出すところがある。
- 顔はよけられやすいので、胴体を狙う。
等の特徴が見られる。
今年7月に行われた武徳会全国大会では、土佐樹誉彦専任指導員の指揮の下で、古武道の演武を行ったが、 通常の古武道とはどこか違う感覚があった。 今回の取材でようやくその疑問が解けたのであるが、その理由はこれらの独自性に由来していたのである。
土佐邦彦会長の印象は厳格で妥協のない人柄であろう。 しかし、実は徹底した現実主義・合理主義の人でもあることは、あまり知られていない。 頑固一徹だけではない、場合と状況に応じて、その場その場でのベストの手段を選択する能力があるからこそ、競技空手の世界でも幾多の名選手を生み出しているのだ。
- 1932年
- 1月1日広島市内に生まれる。
- 1950年
- 5月松涛館流入門空手修行。後、沖縄の人、祝嶺正献師範に師事。
- 1953年
- 陸上自衛隊立川駐屯地に空手道部を創設、他にも5教場を開設指導。
- 1959年
- 東京都練馬区に玄制館大泉道場を開設指導。
- 1962年
- 祝嶺宗師の日本躰道創始により、玄制流武徳会を創立し玄制流の普及を志す
- 1965年
- 埼玉県朝霞市に総本部道場を開設し、指導研究に専念する。
- 資格
- 全空連公認八段、2級資格審査員
- 全空連公認全国審判員(形、組手)
- 全空連公認全国指導員
- 全空連A級組手審判員資格審査員
- 財団法人日本体育協会B級コーチ
総本部道場へのアクセスマップ
TEL 048-462-2450 または048-465-7649
FAX 048-467-7629
教場〒351-0011 埼玉県朝霞市本町2-8-41
指導責任者土佐邦彦会派段九段公認段八段教士
−JKFan2007年12月号 特集記事より転載−