魅せた電光石火の蹴り!土佐樹誉彦
解説/競技の達人 月井新
ウルトラキックの秘密
おそらく、土佐選手は参加選手中、最も身体の柔らかい選手である。特に腰まわりの柔らかさは見たものが一様に驚くほどだ。しかし、今までは下半身に力が入っていた為、その柔軟性を活かせないでいた。それが今年、土佐選手は大きな変身を遂げたのである。
先の埼玉国体では、フットワークを使う土佐選手に周囲は驚いた。そして今回は、電光石火の蹴りの数々で再び観衆を驚かせたのだ。今大会のベストシーンを選ぶならば、私は迷わず対二瓶卓郎戦で放った土佐選手の上段回し蹴りを選ぶ。
二瓶選手も、中段蹴りを何度も決め続け勝ち上がってきた。その二瓶選手が2-2の互角の展開から、起死回生の中段回し蹴りを放った瞬間である。土佐選手が素早く二瓶選手の蹴りを捌き、斜めに下がる。
そして、二瓶選手の蹴り足が床に着いた瞬間に、完璧なタイミングで土佐選手の上段蹴りが二瓶選手の顔面を捕らえたのである。写真1〜7の蹴りが決まった瞬間に、会場は「ウォーッ!」という感嘆の声に包まれた。
実は、この連続写真で特筆すべき点は、写真6の見事な蹴りではなく、その前の写真2〜4での土佐選手の体勢にある。二瓶選手が中段蹴りを仕掛けた瞬間に、股関節の力を抜いて沈み込んでいる。特に前足の股関節部分がよく曲がっており、後退しても重心が後ろに流れていない。この体勢があるからこそ、その後の柔軟性を活かした見事な蹴り返しが実現したのである。
鍵は骨盤
今大会は何かと蹴りばかりが目立った土佐選手であるが、実は上段突きのカウンターも見逃せない。つまり、突きも蹴りも反応が早かったために的確に決める事ができていたのだ。この土佐選手の進化は、技の瞬間に抜く感覚がつかめてきたことに起因している。
しかし、土佐選手はこれでもまだ進化の途中過程なのである。年齢的には大ベテランの域に達してはいるが、まだまだ強くなる要素が十分に秘められている。
その土佐選手のさらなる進化の鍵は、準決勝の対松崎戦にあった。両者ともに同じようなタイプで、手の内は十分に知り尽くしている。同じような構えとリズムでお互いの隙を伺っていたが、松崎選手に比べ土佐選手は骨盤が若干後傾気味なのが気になった。
構えた時の骨盤の位置が松崎選手は理想的な角度にあり、土佐選手はそうではなかった(写真a)。これが両者の差である。
本来は土佐選手が先に仕掛けるべきであったが、松崎選手が先にプレッシャーをかけてきたのも、骨盤の角度と無縁ではない。
今年はこの問題を克服し、どんな姿で我々を驚かせてくれるのであろうか。ベテランであっても進化し続けることができる。それを是非証明してほしいものだ。