なんでもいい。
物事が飛躍的な進歩を遂げるとしたら、それは今までの常識がひっくり返るときだ。
科学だって、現在の常識が非常識になる過程で進歩していくものだし、昨今の身体操作ブームも、タブーとされてきたアプローチがあったからこそ、さらなる熟成を見せた。
歴史においては、古い常識が打ち破られ、新たな考えが普及することもしばしば。
過去の非常識は、現在の常識へ。そして、現在の非常識は、未来の常識となっていく。
今月号も、約20年前から空手界に伝わる常識と戦い、さらなる空手の進化を模索し続けている元・全空連日本王者・杉田隆二氏を取材。
たっぷりと現在の非常識=未来の常識を教えてもらうことにした。

常識が非常識、非常識が常識となる! 身体理論バイブル2010 後編

「極端に言えば、この様に、外から見た形はどうでもよい。要するに個人個人に合った道具(空手で言えば手や足など)が効果的に使えればよい。外から見たフォームは100人100通りあってよいはずである」(杉田)

杉田隆二(すぎた りゅうじ)
昭和27年東京都出身。小さい頃は病弱であったが、父の勧めで10歳の頃から講道館柔道に入門。18歳の頃、近所にあった日本空手道玄制流武徳会に入門。卓越した土佐邦彦氏の指導により、才能を開花させ、めきめきと頭角を現していく。26歳のときに第6回全空連全日本(L級)を制覇。野性味溢れる風貌に似合わなず(?)理論肌で理系の視点から、空手を研究。全日本空手道連盟教士6段・国際玄制流空手道連盟 武徳会7段・日本体育協会公認空手道上級コーチ・全国組手審判員。


その八 歩くことについて

1.杉田氏の歩き方の秘密に迫る

 先月号で述べたとおり、杉田氏の歩き方は(写真1〜6参照)、現在の一般的に行われている歩きとは異なるものだ。

写真1 写真2 写真3

写真4 写真5 写真6

 簡単に言えば、杉田氏は腕を振らない=腰を捻ってはいない(写真7・8参照)。下丹田(写真9参照)の意識が発達しており、それが引っ張られるような感覚で歩いている(写真10参照)

写真7 写真8 写真9

写真10

 さらに足で蹴っておらず(腰=下丹田を落として移動している/前編参照)、リラックスしながら、等速度で歩いている。

 「この歩き方は、相手を反応させない歩き方なのです。力の起こりを察知させず、中に入る歩き方と言い換えることができます。反応しなければ、突き蹴りが遅くても、相手との関係で、速くなる。歳を取り、老いても、老若男女関係なく、速く動けるとはそういうこと。それが武道の面白さなのです」(杉田)

 さらに手などが邪魔でない所にあるときは、上半身は脱力しているはず。微動だにしないことが理想となる(構えていると仮定すると、手・腕・肩が全く動かない)。

 「いわゆるナンパ歩きと同様な感じなりますが、手と足の同じ側の手足を動かすことではなく、手が邪魔になって、あたかも手足が同時に出ているように見えることに注意して下さい」(杉田)

杉田MEMO

 なぜ、飛脚はあのように長い棒の先に文をつけて運んだのであろうか(写真11参照)

写真11

 その時期には背負子もあったはずだ。身分の高い人の文を高い位置に置くのは当然だが、背負子のような形で長い棒の先につけてもよかったはずだ。

 また、前の棒が長い必要もないと思うし、考えれば考えるほど、体の使い方(歩く、または走る体の使い方)が違うように思われてならない。

 おそらく、彼らは下丹田が先に動き、後から足が付いていくようなイメージで歩いていたと思う。また速く歩く(走る)には、体を前傾させていたのかもしれない。

 前に棒があれば、倒れてしまうという恐怖感が減少して、より大きな前傾が可能となり、速く歩けるからだ。これにより、体の上下動も、捻りも殆どない歩きも可能になる。

 その結果、カロリーの消費を極力抑えられ、一昼夜で江戸から青森まで飛脚が走った(歩いた)という言い伝えも生まれたのであろう。

杉田MEMO

 昔の金魚売りや、農業の肥たごを担いで歩く歩き方は、上半身を前と後に使い、下丹田を中心に、等速的に歩くものだった。左右のブレがあったり、加速度的に歩いていたりしたら、中身はこぼれていたはずだ。

 さらに昔の絵画を見ると、歩いていると思われる図では、膝が曲がっているようである。腰を落として(前編参照)歩くと、限りなく左右のブレはなくなる。昔の人の歩き方は、現代人のそれに比べて、ブレが少なかったことであろう。

 空手においても、上半身は少しも動かしてはならない。

2.横のブレを無くす

 足が無い&体(下丹田)が始めに動き、足が後から付いていくイメージで歩くことができれば、体の左右のブレは、ほとんど無くなっていく(写真12〜14参照)

写真12 写真13 写真14

 横のブレが無くなれば、相手は距離感が掴めず、反撃(カウンター)しにくくなる。そして、遠近感が掴みにくいと恐怖感が生まれてくる。恐怖感を持ってくれた相手は、扱いやすい。さらに上半身を動かさないで歩ければ、相手の反応が遅れたり、ハッとして驚いてくれたりする。この時に技を出せばよいわけである。

口伝『稽古』

 「稽古」とは、古(いにしえ)を稽(考える)という意味である。つまり、古きを学ぶことにより、新しきを考えられるのだ。

 現在では、稽古とは言うものの、稽古ではなく練習が多い。昔の体の使い方をもっと研究する必要がある。

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その九 骨盤のスライド&下丹田を回す

骨盤のスライドを学ぶ

 骨盤のスライド(写真15〜17参照)を身につけると、足を動かさなくても、間合いを詰めることができる(写真18・19参照)。より遠い距離から、突き・蹴りが届くようになるのだ(写真20〜22参照)。また、対戦相手がこちらの攻撃を予想しづらいなどの効果もある。

写真15 写真16 写真17

写真18 写真19

写真20 写真21 写真22

 骨盤をスライドさせるには、股関節を開く(外旋)感覚が必要だ(写真23参照)。そのための一つの方法が足首を開くことである(写真24&杉田MEMO参照)

写真23 写真24

 股関節を開いたら、脱力。骨盤をスライドさせ、入っていく(写真25〜29参照)。下丹田を等速でぶつけていくのだ(写真30参照)

写真25 写真26 写真27

写真28 写真29 写真30

 「この時、体の力が抜けていれば、軸となっている足以外は、自由に動くはずです。つまり、左右の手と軸足でない足の蹴りが瞬時に出せる&連続技も可能です。これらの動作は、突きや受け等の動作と連動させるのではなく、別々にも同時にも、さらにはあたかも運動させているようにも動かすことができなくてはなりません」(杉田)

杉田MEMO

 人によって、膝の皿の位置が違うことを知っているだろうか?
 皿が膝の外に付いている人は(写真31参照)、脱力すると膝下が内側に入りやすい(写真32参照)。その膝のタイプは、膝を真っすぐに曲げると(写真33参照)、股関節が外旋して、足を開かなくても=相手に気づかれずに骨盤をスライドさせることができる。

写真31 写真32 写真33

 逆に皿が内側あるいは真ん中に付いている人は(写真34参照)、足をある程度開かないと(写真35参照)、股関節の外旋ができないことが多い。

 サンプルが少ないため、断定はできないが、膝の外側の骨と、皿の外側を結んだ延長線(写真36参照)が正対した相手に向かうような足の向きが、骨盤を割りやすい(股関節を外旋させやすい)&一番足の開きが少なくて済む位置といえる。

 膝の形を見て、自分はどちらなのか、確認してみよう。

写真34 写真35 写真36

2.下丹田を重力で回転させる

 下丹田を重力で回転させるイメージを持つと(写真37参照)、骨盤(体軸)があたかも前傾している感じになる(写真38参照)。これにより、遠くから攻撃することが可能となり(写真39〜41参照)、相手の中段突きも届きにくくなる(写真42参照)

写真37 写真38 写真39

写真40 写真41 写真42

 「下丹田主体で体を動かしていれば、着地した後も、下丹田は動いているので、あたかも骨盤がスライドしている感じになり、次の一歩が出る(写真43〜47参照)&攻撃の距離も伸びます。

 力を抜いたときに仕事ができるという動作は、狭い土地の農耕民族である日本人の得意とする動作です。ぜひ身につけて下さい」(杉田)

写真43 写真44 写真45

写真46 写真47

3.骨盤前傾&下丹田 回転させながら移動

 前に出るときの骨盤の使い方は、骨盤の上方(背骨に近い方)を前に出すように前傾させる。この時、骨盤を前方にスライドさせると、より距離がでる。

 道路標識の様な物を掴んで引くイメージで行うと、骨盤のスライド、前傾が同時にできやすい。 逆に後ろに下がる場合は(写真48〜50参照)、骨盤の下方(股関節に近い方)を引く感じで骨盤を前傾させる。この時、重たいボール(メディスン・ボールのような物)を受け取るように、骨盤を後方にスライドさせると、相手との距離をより取ることができる。

写真48 写真49 写真50

 「動く瞬間に下丹田を回転させながら、骨盤を潰す感じで、スライドさせましょう」(杉田)

杉田MEMO

 最近、何でも画一的にやらせようとする指導が多いことに疑問を抱く。しかし、体格の個人差があるため、なかなか理想通りにはいかない。

 例えば、両膝がつかない極端なO脚の人に膝をつけて“気をつけ”の姿勢は無理だ。黒人と日本人の骨盤も然り。黒人の骨盤は前傾している。日本人の骨盤は平坦になっている。日本人が黒人の走り方=膝を高く上げる走法をマネしても、逆に骨盤が後傾し、前方への推進力は失われてしまう。

 ゆえに陸上短距離の第一人者・末續慎吾選手は、外国人選手に比べ、膝を上げず、手も大きく振らず、体を前後に使うイメージで腕を振り、骨盤を切りながら前後に使うイメージで足を運んでいるように思える。 足裏全体で着地にするのも、膝を高く上げないために必要なことである。膝を高く上げないすり足のような走り方が、日本人にはあっているのだ。 日本人にあった体の使い方(ここでは、骨盤の使い方)を学ぶ必要がある。

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その十 試合における入り方

「歩き方の項で書いたように、地面を蹴らない、左右のブレもない、等速の歩き方で入るのが基本です。しかし試合となると、外から見て強く見えるようにしなければならないし、現在のスポーツの体の使い方で動いてきた人に、いきなりやれと言っても無理でしょう。そこで、いくつか入り方のコツを紹介していきましょう」(杉田)

1.力を抜きながら入るためには、恐怖感が一番邪魔になる。上段をカバーするように構えた方が恐怖感を抑えられる。

「私の場合は、口伝『後の手で受け、前の手で攻撃する(写真51参照)』の如く後ろの手で上段をカバーするように構えた方が(写真52参照)、恐怖感を抱かず入ることができました」(杉田)

写真51 写真52

2.手&腕等、上半身を動かさない方が、相手が反応しないのは、当然である。

よって、手が届く距離まで、手は動かさない。どちらで突くのか、相手に分かるような動きはしないことが大切だ。出そうとする技が突きと仮定すると、突く方の手になんらかの察知されるモーションが出やすい。

 「右で突こうとするのならば、左手で突くような気持ちで入り(写真53・54参照)、体を動かす瞬間に手を入れ替えるように突く(写真55参照)よう心がけましょう」(杉田)

写真53 写真54 写真55

 理想的には、手技を出すのか、足技を出すのか、自分でも分からないニュートラルな気持ちで入っていく。そして、技が届くところまで歩き、相手の空いている場所に技を叩き込む。ニュートラルな気持ちでいるのが難しいなら、受け取る(できたら自分の下丹田で相手の下丹田を受け取る)気持ちで動いた方が、相手の反応は遅れる。

 「余談となりますが、地上を歩く人間は、上から下への動きに対する反応がよい。
 写真56・57のように、手を一度下げてから入る人がいますが、その動きは最悪ですので注意しましょう」(杉田)

写真56 写真57

3.できるだけ手を相手の前に置いてある方が、恐怖感がなくなる。

 前手で突く時は、後の手(中丹田から手が始まっている感覚は必要)を自然に前に出すイメージ(肩甲骨を開く感覚に似ている)で入り(写真58参照)、残した右手と左手を入れ替えるイメージで突く(写真59参照)。手を入れ替える前に、前手を少しでも引いてしまうと、相手に反応されてしまうので、注意する。

写真58 写真59

 逆突きで入るときも同様に、前の手(肩甲骨)を自然に前に出す感じで入りながら(写真60参照)、手を入れ替えるイメージで突くようにする(写真61・62参照)

写真60 写真61 写真62

4.入る時の原則的な方向を上げてみる。

・相構えのとき

 後ろの手で相手の前手を押したとすると、相手の前手が後ろ手にぶつかるような方向から入る(写真63〜65参照)

写真63 写真64 写真65

・逆構えのとき

 後ろ手で相手の体軸を押せるような方向から入る(写真66〜68参照)

写真66 写真67 写真68

 「相構えも逆構えも、入る時は相手の下丹田を自分の下丹田で受け取るようなイメージで入る事が大切です。しかし、これは原則であって、組手には例外がたくさんあることも頭に入れておいて下さい。

 また日本人の動きは、すり足で動くことに向いています。入るときは、膝を高く上げて、踏み込むのではなく、すり足で骨盤を切り、前後に体を使うようにしましょう」(杉田)

口伝『腰を切る&割る』

 腰を切るという言葉に、腰を回転させるという意味はない。

 切るとは文字通り二つ以上に分けることである。腰も前と後に分けて使うというイメージが重要である。腰を割るということは、相撲などでもよく使われている言葉であるが、これも文字どおり左右に割るというイメージである。

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その十一 受けについて

1.下丹田の回転に注意

 「受けとは、文字通り“受け取る”ことです。受け取るときに、無駄な力が入っていると受け取ることはできません。

 また、受け取るときは下がる場合が多く、この時、下丹田は後方に回転しやすくなります(写真69参照)。しかし、相手の技(=下丹田)は、前方に回転していることが多いため、下がりながら下丹田を後方に回転させると、相手の力の方向とぶつかってしまう=受け取りにくい(写真70参照)

ゆえに下がりながらも、下丹田は前方に回転させる技術が求められます(写真71参照)」(杉田)

写真69 写真70 写真71

2.受けを学ぶ真の意味

 「私の学ぶ流派には、基本の受けが5種類あります。しかし、組手において基本の受けのような大きな動作で受ける(払ったり、打ち込んだりする)ことは、実際にはありえません。特に、腰を引いた位置から受けたり(写真72〜74参照)、手を体の反対側に一度持ってきてから払ったり(写真75〜77参照)することなど絶対にありえないことです。

写真72 写真73 写真74 写真75 写真76 写真77

 では、なぜこれらを練習するのでしょうか?もちろん、初心者の為には必要な練習ですが、これらの動作は受けの他にも、上半身(特に、肩甲骨の使い方)を稽古する意味合いを持っている、と私は考えています」(杉田)

 では、より具体的に受けの動作から何を学ぶのか説明していこう。

上段あげ受け(写真78参照)

 より上方向に上げることにより、上段あるいは接近戦の鈎突きの使い方の鍛錬となる(写真79〜81参照)。肩甲骨は、突きとほぼ同様に使う。 高さによって力を抜いたとしても、安定しやすい肘の角度や手の向きがあることを理解する練習にもなる。

写真78 写真79 写真80 写真81

 例えば、中段に近いと手の甲の部分が上に向き(写真82参照)、頭の上となると、手の甲は後に向きやすくなる(写真83参照)

写真82 写真83

下段払い受け(写真84参照)

 受ける前に、受ける手を反対側の耳に触る位に上げてから行う(手の甲は、外を向く/写真85参照)。 この時に脇を空ければ(肘を上げなければ)、自然と肩甲骨が開いて(写真86参照)、あたかも受ける手が、体軸を巻くように、前から後ろにいく感覚をマスターすることができる(中丹田・下丹田から手が始まっているイメージは必要)。

写真84 写真85 写真86

 つまり、肩甲骨は、前を通って後に移動していることになる(写真87参照)。 添え手(右手)に関しては、前に出しているので、肩甲骨は前へと移動する(写真88参照)。そして、下段払いを行う時は、受ける手(左)を後から前に、添え手(右)は前から後に使う感じで操る(写真89参照)。この体の使い方は、振り突き、拳槌打ちなどに有効な使い方である。

写真87 写真88 写真89

 また、添え手で相手の突きなどの手を取ったと仮定すると(写真90参照)、尺骨で相手の前腕を落とせば、相手を崩すことができる(写真91〜93参照)

写真90 写真91 写真92 写真93

 「この時、相手の手首から、指三本分くらいの神経が外に出ていて筋肉が少ない所を尺骨でこするように落とすとよいでしょう」(杉田)

写真94

中段外受け(写真95参照)

 受ける前に、受ける手(右)を反対側の腰骨に触るくらいまで持ってきてから行う(手の甲は、ほぼ上を向く/写真96参照)。添え手(左)は、下段払い受けと同様に前に出しているので、肩甲骨は前へと移動している。肩甲骨の使い方は、下段払い受けとほぼ同様である。

写真95 写真96

 「腕が下から上にいくので、裏手刀打ち(写真97・98参照)、内側からの裏突きなどに有効です。添え手で相手を捕まえた場合(写真99参照)、相手の肘付近に当て(写真100参照)、四方投げへと変化できます(写真101〜104参照)」(杉田)

写真97 写真98 写真99 写真100

写真101 写真102 写真103 写真104

中段内受け(写真105〜107参照)

 受ける前に、受ける手を同側の耳に正拳部分が触るように上げ(この時、手の甲は後を向く)、肘を横に張り(写真105参照)、さらに後へ持っていくように動作する。この時、肩甲骨は外に開き気味となり、後方へ引く形となる。添え手(左)は、内受けと同様に前に出しているので、肩甲骨は前へと移動している(写真108参照)

写真105 写真106 写真107 写真108

 「動作する時は、肩甲骨を外から中に入れるように前へ出し、引き手は後方に引きましょう(写真106・107参照)。この体の使い方は、手刀打ち、拳槌打ち(写真109・110参照)、前腕を返せば、遠い所への鈎突き(ボクシングで言うスイングの様な感じ)に有効であると考えます。添え手で相手を掴んだ場合(写真111参照)、相手の肘付近に打ち込めれば(写真112参照)、寝技の腕がらみの様な形となり(写真113〜119参照)、下に落とせば腕がらみ投げとなります(写真120〜122参照/123は極め)」(杉田)

写真109 写真110

写真111 写真112

写真113 写真114 写真115 写真116 写真117

写真118 写真119

写真120 写真121 写真122 写真123

手刀受け(写真124参照)

 受ける前に、受ける手の反対側の耳に掌が触るように上げ(写真125参照)、斜め45度外側に切り落とす様に受ける(写真126・127参照)

写真124 写真125 写真126 写真127

 「内受けとは逆に肩甲骨を内側に入れ(写真128参照)、外に開くように前へ出すことがポイントです」(杉田)

 添え手は受け手を出す方向から、外に開くように後方へと引く(写真129参照)

写真128 写真129

 「この使い方は、内側から手刀打ちなどに適していると同時に、横からの相手に対する体の処し方(写真130・131参照)の入り口になっていると思います。添え手で相手を掴んだとすると(写真132参照)、下段払いのような崩しにも変化できるであろうし(写真133参照)、外受けのような崩しも可能です(写真134〜136参照)」(杉田)

写真130 写真131

写真132 写真133

写真134 写真135 写真136

口伝『受けということ』

 受けという言葉に、払うとか、打ち込むとか言う意味はない。

 受けとは文字通り、“受け取る”ことである。一般に言われている受けとは、攻撃のための技ではなかろうか。

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その十二 手刀打ち&振り突き

1.今一度、手刀打ち&振り突きの説明をしておく。

 手刀打ちは横の回転(写真137〜139参照)で打つのではなく、体を中&下丹田を中心に縦二つに割って、前後に切る感覚で打つこと(写真140・141参照)。腕と手は、横から廻しているように使うが、当てた瞬間に手刀で急所をこするように打つと(写真142・143参照)、威力が奥まで浸透する。表面だけでなく、下丹田でぶつかっていくことが大切だ。

写真137 写真138 写真139

写真140 写真141

写真142 写真143

 「競技で使うとしたら、掌で相手を打つように動作し、当てる瞬間に手を返すと(写真144・145参照)、屈筋が働いてコントロールしやすいと思います。裏手刀打ち=背刀でも、同様の体の使い方をする(写真146・147参照)。」

写真144 写真145

写真146 写真147

2.外からの振り突きも同様。

 コントロールするには、技を極める(止める)瞬間に手を捻って、裏拳の部分を当てるようにする(写真148〜150参照)。実際に当てる時はボクシングで言うスイングのように、正拳の部分で打ち抜けばいい。

写真148 写真149 写真150

杉田MEMO

 競技は点を捉える。地稽古(乱捕り)は線を捉える。それが私の持論だ。ゆえに競技では、審判へのアピールも含めて、技をコントロールする(点を捉える)必要がある。

 突きであれば、拳を捻る事により屈筋を働かせ、コントロールする。引く力を鍛えるような筋力運動も必要であろう。前蹴りであれば、引き足を取るために大腿二頭筋を鍛える必要がある。

 また廻し蹴り、裏廻し等であれば、コントロールしたように見せるために、体を相手のいる方向に伸ばすようなイメージが必要となってくる。

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その十三 蹴りについて

1.軸足及び蹴り足を同時に脱力させる

 軸足は、体を真下に落とすイメージで脱力し、蹴り足も体の落下によって浮かせ(=運動量保存則)、脱力する(写真151・152参照)

写真151 写真152

 「蹴り足が浮いた瞬間に、骨盤を前にスライド(または、縦に回転)させ(写真153参照)、蹴りましょう(写真154参照)。相手の股の付け根、あるいは相手の骨盤を踏みつけるようなイメージで足を上げると、骨盤のスライドをさせやすいと思います。この時も足の力は抜いておくことが大切です」(杉田)

写真153 写真154

 身近なタオルで説明すると、次のようになる。タオルには筋肉は付いていないが、根元を持ち、骨盤の動きと同様にタオルを相手に向けてスライドさせると(写真155・156参照)、タオルの先端は、あたかも前蹴りのごとき動きとなる(写真157参照)

写真155 写真156 写真157

 「蹴る時、下丹田を前方に回転させるイメージで行うことも重要です(写真158参照)。足はタオルと違って関節があるため、どうしても下から上に力がいきがちです。この動きを前方に力が集中させるためには、下丹田を前方へと回転させるイメージが必要なのです。蹴る目標に足に付いた泥を上足底で塗るイメージで行うと、やりやすいかもしれません」(杉田)

写真158

2.床を蹴ってその反動で蹴るな

 床を蹴って蹴りを行うと、一動作増えてしまい、相手に反応されやすくなる。 そのため、まずは自分の蹴りが床を蹴っているか、チェックしてみよう。写真159・160のように蹴り足の下にタオルなどを置いて、蹴ってみるのだ。タオルが後方へ動くと床を蹴っていることになる(写真161参照)

写真159 写真160 写真161

 「足を持ち上げてから蹴ってはいけません。脱力が上手くいけば、自然と足が上がり、蹴り足が速く&遠くへと走っていくはずです」(杉田)

3.蹴った瞬間軸足を忘れる

 外から見て、膝の曲がる方向が変わらなければ(=相手から見て起こりが分からなければ)、蹴りが当たる時に足を開いてもかまわない(写真162・163参照)と杉田氏は語る。

写真162 写真163

 「その場で蹴る時は、上記の1〜2ができていれば、軸足が開いてしまう人はいないでしょう。しかし、遠くを蹴る場合は(移動して蹴る時など)軸足が開いてしまう人が必ず出てくるはずです。

 けれども、気にすることはありません。個人の体格差の範疇ならば、許されます。極端な例を挙げるとすれば、X脚の人は膝の曲がる方向が内側にいきやすいので、足を開かないと(写真164・165参照)、蹴りがスムーズに放たれない場合があります。逆にO脚の人は開かなくても、楽に蹴ることができます(写真166・167参照)」(杉田)

写真164 写真165 写真166 写真167

4.軸足の踵は床につかなくても可

 蹴った瞬間、軸足の踵が床についているかどうか(写真168参照)。これもあまり気にする必要はない、と杉田氏は語る。

写真168

 「その場で蹴る時、踵が浮いてしまう人は少ないが、遠くを蹴る時は踵が浮いてしまう人がいます。特に足首の硬い人は、膝を開かない様に遠くを蹴ろうとすると、力を抜いていても自然に踵が浮いてしまいます。しかし、上級者は気にすることはありません。

 下丹田から足が始まっている感覚で蹴ることが重要なことであり、軸足の踵はついていなくても可。蹴る瞬間に足が開こうが、踵が上がろうが、膝(下丹田)が相手にまっすぐ向かっていれば(写真169参照)、関係ありません。足を開く角度や、踵の上がり方などは百人いたら、百通りあってよいのです」(杉田)

写真169

杉田MEMO

 私が吊し割りや立てた物を割る時は、軸足をさほど開かないし(写真170参照)、踵も上げない。スピード重視で、ポジションも自分の好きな所に取ることができるので、あえて軸足を開く必要がないからだ。しかし、固定した物を割る時は(吊し割りよりも、硬い物の場合が多い)、蹴りやすい距離であるにも関わらず、軸足を開いて行う(写真171参照)

写真170 写真171

 なぜかと言えば、割る物より奥を蹴ろうとしているからであり、土踏まずで立ち、脚を開く行為が、蹴ると同時に下丹田を物にぶつけるのに適しているからだ。

5.軸足に力を入れるな

 その場で蹴る時、軸足に力を入れてしまうと、膝(下丹田)が相手に向かっていく妨げとなる。また、膝を伸ばすような動きをすれば(写真172・173参照)、骨盤のスライドはできなくなる。そして、前蹴りは蹴り足だけの力となり、見た目より弱く、遅い蹴りになってしまう。

写真172 写真173

 「遠くを蹴る時に、軸足で体を前に出すという動作は、中身のない蹴りの元凶です。軸足で体を前に出そうとすれば、膝(下丹田)がまっすぐ相手に向かわず、上方向のベクトルが働いて、いわゆるナメ蹴りになってしまいます(写真174参照)

 また臀部(大臀筋等)にも力が入り、骨盤のスライドができなくなり、それでも遠くを蹴ろうとすると、前蹴りなのに腰が横回転しやすくなり(写真175参照)、蹴りの力が分散してしまいます。蹴る瞬間は、蹴り足も軸足も脱力させることを心がけましょう」(杉田)

写真174 写真175

6.上半身は捨てろ

 「蹴りは下半身で行なうものですから、上半身の起こりや反動を捨てること(=身体をバラバラに使うこと)。特に前蹴りは、上半身の力を完全に抜いた状態で(写真176参照/外から見たら、ダラーッとしているように見える)、蹴りを行えなければなりません。

 また上半身の力が抜けていれば、即受け突きなど次の攻防に移ることができます」(杉田)

写真176

7.足刀蹴り&廻し蹴り

 足刀蹴り(写真177・178参照)の両足の使い方は、基本的には前蹴りと同じ。ただ骨盤のスライド&下丹田の回転の方向が横になるだけである(写真179参照)

写真177 写真178 写真179

 「蹴る瞬間、骨盤をフラダンスのように横に振るイメージで行います」(杉田)

 次は廻し蹴りだ。

 「廻し蹴りの起こりは、前蹴りと同様に両足の脱力で始まります。そして蹴る瞬間、足刀蹴りと同様な体の使い方をします。言い換えれば、前蹴りの動作(写真180〜182参照)と、軸足が反対を向く動作(写真183・184参照)です。それを同時に行う事=前蹴り+軸足の方向転換=廻し蹴りとなります(写真185・186参照)

 軸足の回転時に上足底から土踏まずの外側で立つ必要が出てきますので、注意しましょう。

写真180 写真181 写真182

写真183 写真184

写真185 写真186

 この時、下丹田は、常に相手の方向に向かいますが(写真187参照)、相手を上から巻き込むような回転であることが重要です。中段を蹴るとすると、脛を床とほぼ水平にして、脛で相手の前から蹴るようなイメージ。上段を蹴るなら、脛の角度は膝より足が上になり、下段なら膝より足が下となります」(杉田)

写真187

今まで紹介してきた杉田氏の技術は、未だ半分にも達していない。 月刊『空手道』では今後も引き続き、杉田氏の身体理論を追っていきたい。

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