JKFan 6月号 -特集-「知れば知るほど突きたくなる!? 本格派が明かした巻藁思想」より

玄制流親子対談 競技時代に、なぜ巻藁?

武道としての空手道を邁進する玄制流・土佐邦彦。一方、息子の樹誉彦は競技経験を糧に独自の空手観を育んでいた。世代の異なる二人に、巻藁について尋ねた。空手親子対談は、巻藁の現代を映し出すか!?

写真1
土佐邦彦氏。道場下の駐車場に立てられた巻藁を打つ。

写真2
土佐樹誉彦氏(右)。

父親 巻藁の効用は、空手をする人なら皆同じ考えだと思いますが、真っ直に突くことが出来るということですね。脇が開いたり、手首が曲がったりすると正確に拳を当てて突くことが出来ませんので。ただ、今では巻藁を突いていない人の方が多いんじゃないでしょうか、大学生などでもね。

息子 国際大会もそうですが、試合はポイントの取り合いになりますから、とりあえずとどけばいい、という考え方もありますからね。

父親 空手協会などは今でも一本勝負ですけども、そうした武道としての空手をやるには巻藁を突かなくてはならないでしょうね。スポーツとしてポイントを取れればいいのであれば、それほど必要はなくなります。
 私達はそういう点で言えば旧時代の人間なのかも知れませんが、やはりしっかり腰を落として、巻藁と正対してね…。サンドバックだと全然変わってきますから。サンドバッグは突いた衝撃で向こう側に押されてしまうでしょう。巻藁の衝撃吸収力はこれとは違い、あの反発力が良いんですね。拳を正確に当てることも出来ますし。

息子 サンドバッグも重さによって変わってきます。ボクサーにしても、重いバッグでは押してしまうので、軽いのを使うと言います。当てる瞬間だけ力が入れば倒せるわけなので、それでいいんじゃないでしょうか。 

父親 巻藁では、まず、押し込むということが出来ませんね。無理にそんなことをすれば手の方がおかしくなってしまう。だから瞬間的な衝撃が出せる。そういう意味で、これは空手独特の鍛錬法だと思いますよ。

息子 ようするに瞬間的な力が出れば良いわけなので、極端な話、そんなにしっかり握って無くても慣れていれば叩けるには叩けるんです。力の抜けた状態で効かせられれば良いので、時にはリラックスして突っ立ったような状態で巻藁を突くこともあります。

父親 どうやら、彼らの今の感覚と私達の世代の感覚とはやはり少し違うようです。私達は、一発で倒せるのか、倒せないのかを問題にして来ましたから、一発で倒すいわゆる「極め」ということを考えると、腰を落として突かないといけないと思います。

息子 でも、一緒なんですよ、最終的に。

父親 まあ、もちろん最終的には一緒なんだけどね…。

息子 実践を考えても、下段払いして、それから逆突きして、というのはないじゃないですか。自然体で叩けるのが理想だと思うんです。もちろん練習は両方やりますが。

父親 一度は、巻藁をどうやって突くか、どういう体勢で突くか、しっかり教えないといけないと思うんですね。実際には、いくら言っても巻藁に興味を示さない人が増えているわけですが、まあ、仕事を終えてギリギリ到着する人もいるし、かといって終わってから突こうとしても、こうした住宅街ではむずかしい。

息子 音が出るんですよ。相当響きますからね。

父親 そうそう。いくら我々は昔からここに居ると言っても裁判になれば負けますから。そんなわけで、こちらの道場も防音工事を施しました。大変ですけどね、そういう時代になりました。

―ズバリ、巻藁は競技に役立つのでしょうか?

父親 うーん。それは疑問ですね。やはり、武道として空手をとらえるというのでないと、巻藁重視という考え方にはならんでしょうね。突かないよりは当然突いた方がいいでしょうけどね。そういう意見は、若い人に聞いてください。

息子 僕は、同じ玄制流の杉田隆二先生に言われて、薄くて良くしなる巻藁を突いたりしてますよ。脱力した状態で突いて反動が返ってくる前に引くんで、本当に瞬間的な力になりますね。
 それとナショナルチームの津山先生に、あまり重いサンドバッグで蹴りを練習すると押し込む蹴りになってしまうので、軽いのを何度も蹴るように指導されました。

父親 押蹴りは試合でも取りませんわね。

息子 うん。あと普通に考えて、押し込むとつかまった時に、倒されたりするじゃないですか。そうならないように、軽いサンドバッグを使って力を一点に集中するように蹴る練習をします。
 今、試合とかでも前蹴りを使う人は少ないでしょう? 皆指が怖くて蹴れないんだと思うんで、巻藁で虎指を鍛えたら良いと思います。

父親 でも、最近では前蹴りの上手な子供がいっぱいいるね。

息子 慣れれば蹴れるんですよ。

父親 今は回し蹴りが全盛だから意外に前蹴りが入る隙があるんですね。

息子 回し蹴りばかりで、前蹴りの蹴り方を知らない人も多いから、前蹴りがあれば、かなり使えると思います。

―玄制流独自の突き方というのはあるんですか?

父親 人間の考えることですから、そんなに変わった、奇をてらったようなものはありません。巻藁突きには流派の特色はあまりなく、空手に共通なものなのでしょう。昔の沖縄でやられていたほどには、バリエーションはないと思います。
 祝嶺制献の「新空手道教範」に、巻藁の作り方から突き方まで載っているので参考になります。
 当時、これほど体の仕組みや、空手との関連を示した著作はなく、これが初めてだったと言って良いのではないでしょうか?


相手を倒す「極め」をつくるのに日々の鍛錬は欠かせない。


前蹴りなど虎指を使う蹴り技は、とりわけ鍛錬を要する。

強靱度より当て心地をうるようにする

 部位を鍛錬する方法はいろいろあるが、技術として役立つように仕上げるには、まず強靱度のよい部位をつくることが必要である。そしてさらに最終的には、「当て心地」をおぼえることに目標をおくことが望ましい。

―祝嶺制献著「新空手道教範」(日本文芸社)217ページより―

−JKFan2006年6月号 特集記事より転載−